RSウイルス感染症について

ふたたび、RSウイルス感染症の流行か?(2011/10/1)

RSウイルス感染症は、平成23年冬季に、ここ10年間のうち3番目に多い流行がありました。

(感染症情報センター:http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/weeklygraph/21RSV.html参照)
そしてこのホームページも、予防薬があるかどうかという視点で取り上げました。

 

しかし、3月末には急速に減って、4月5月6月には平年並みに落ち着いたので小児科医もホッと胸をなでおろしていました。
ところが7月に入ると全国からの報告が少しずつ増えはじめ、8月には平年の倍以上になり、9月も各地からの報告が続いています。
この冬もかなり流行するのではないかと心配です。

 

RSウイルス感染症とはどんな病気か?予防接種は出来るのでしょうか。

 

おおざっぱに言えば、RSウイルス感染症は冬に赤ちゃんがかかる重症のかぜです。
特長は、大部分が6カ月以下の乳児であることと、この時期には呼吸器がまだ十分に発達していないため細気管支炎や肺炎になりやすく呼吸困難となり重症化しやすいことです。
二つ目の特長は、いまのところ特殊な治療薬しかないことです。
三つ目の特長は、ワクチンがないことです。
四つ目の特長は、大人になるまで何回もかかることです。

 

症状は、鼻水から始まり38-39度の発熱と咳が続きます。
25-40%に細気管支炎や肺炎の徴候であるぜこぜこする咳き込みが見られ、呼吸困難
のために入院が必要となる児が0.5-2%あります。
大部分は8-15日で軽快しますが、入院する子の大部分は6カ月以前の赤ちゃんです。

 

大人でも、生涯に何度もRSウイルス感染症にかかりますが、普通のカゼまたはかぜをこじらせてひどくなったと思っていることが多いのです。
まれに重い気管支炎や肺炎になることもあり、老人や心臓・肺の病気を持っている人や免疫力が弱まっている人は注意が必要です。高齢者で死亡例もあります。

 

病原体はRSウイルスで、Respiratory Syncytial Virusで、略してRSVといいます。
Respiratory は「呼吸の」と言う意味で、呼吸器系のウイルスであることを示します。
Syncytial は、「syncytiumの」と言う意味で、RSウイルスが、ヒト培養細胞で
syncytium(合胞体)を形成することがあることからこの名がつきました。

 

  • 予防には、手洗い
    RSウイルス(RS-virus)は、咳で生じた飛沫を吸い込んだり、痰や鼻水が付着したおもちゃをしゃぶることなどによって、ウイルスが眼・のど・鼻の粘膜に侵入して感染します。この感染方法はインフルエンザや他のかぜも同様です。
    手がウイルスを粘膜に運んでいる場合が多いので、手を良く洗うことは予防に効果的です。
    自分が感染しないためにも他人を感染させないためにも、手を良く洗うことを習慣にしましょう。
    調理や食事の前や鼻をかんだ時は、水と石けんで手を洗い流しましょう。
    石けんで指がかさかさした場合は、1日3回ほど市販の白色ワセリンを塗ると改善します。

  • 潜伏期と治癒後の感染力
    RSウイルスによる気道の感染症の潜伏期は5日程度です。
    感染した子どもは、症状が現れる前にも周囲の人たちを感染させる力があります。
    また、症状が消えてからも1-3週間は周囲の人たちを感染させる力があります。

    これは感染性腸炎などのウイルス感染症でも見られる事実ですが、保育園などへの登園を禁止する必要はありません。登園時期は主治医の判断によりましょう。

  • 隔離
    生後6カ月以下の乳児の血液中には生まれる前に母親からもらった多種類の抗体がありますが、残念ながらRSウイルス感染を防ぐ役には立ちません。

    生後6カ月以下の乳児は重症になりやすいので、感染を防ぐことは特に重要で、カゼをひいている人から隔離しましょう。
    RSウイルス感染症が流行する冬は特にこのことが必要です。
    赤ちゃんが未熟児であったり心臓疾患を持っている場合は最大の注意が必要です。

  • 環境の危険因子―受動喫煙
    タバコの煙を吸うことは、RSウイルスによる気道の感染症の危険因子の一つと考えられるため乳児や幼児のの受動喫煙を防ぐことは大切です。
    インターネットで見つかる「こどもの受動喫煙について」を参照してください。

  • 予防接種(ワクチン)は、
    現在、研究開発の途上にあり、実用ではありません。
    サルを含む動物や、成人の志願者を対象に試験的に用いられている弱毒の生ワクチン候補の株もありますが、まだ実用化されていません。

  • 注射薬(重症化を防ぐための)パリビズマブについて
    予防接種(ワクチン)ではありませんが、抗RSウイルスヒト化モノクローナル抗体のパリビズマブ(遺伝子組み換え)という注射薬が、アメリカ合衆国では1998年から、日本では2002年から、承認・市販されています(商品名:シナジス)。

    これを打てば予防できるものではなく、RSウイルス感染による重篤な気管支炎や肺炎の発症抑制のために用いられます。

    使用適応が社会保険で以下のように定められていて、誰にでも使用できるものではありません。
    ○在胎期間28週以下の早産で12カ月齢以下の新生児・乳児。
    ○在胎期間29-35週の早産で6カ月齢以下の新生児・乳児。
    ○過去6カ月以内に気管支肺異形成症の治療を受けた24カ月齢以下の新生児・乳児・幼児。
    ○24カ月齢以下の血行動態に異常のある先天性心疾患(CHD)の新生児・乳児・幼児
    (2005年10月に効能・効果追加)

    用法は、RSウイルス流行期を通して月1回のペースで筋肉注射をします。
    1回10万円と高価です。

参考文献

  1. The IMpact-RSV Study Group. ; Palivizumab, a humanized respiratory syncytial virus
    monoclonal antibody, reduces hospitalization from respiratory syncytial virus infec
    tion in high-risk infants. ; Pediatrics, September 1998;102:p.531-7.
  2. Committee on Infectious Diseases and Committee on Fetus and Newborn, AMERICAN ACADEMY
    OF PEDIATRICS. ; Prevention of Respiratory Syncytial Virus Infections: Indications
    for the Use of Palivizumab and Update on the Use of RSV-IGIV.; Pediatrics, November  1998;102:p.1211-6.
  3. Committee on Infectious Diseases and Committee on Fetus and Newborn, AMERICAN ACADEMY
    OF PEDIATRICS. ; Policy Statement: Revised Indications for the Use of Palivizumab
    and RSV-IGIV for the Prevention of Respiratory Syncytial Virus Infections.; Pediatrics,
    December 2003;112:p.1442-1446.
  4. H. Cody Meissner, MD; Sarah S. Long, MD; and the Committee on Infectious Diseases and
    Committee on Fetus and Newborn, AMERICAN ACADEMY OF PEDIATRICS. ; Technical Report:
    Revised Indications for the Use of Palivizumab and RSV-IGIV for the Prevention of
    Respiratory Syncytial Virus Infections; Pediatrics, December 2003;112:p.1447-1452.
  5. William W. Thompson; David K. Shay; Eric Weintraub; Lynnette Brammer; Nancy Cox; Larry
    J. Anderson; Keiji Fukuda. : Mortality Associated With Influenza and Respiratory Syn
    cytial Virus in the United States. : JAMA. January 8, 2003;Vol.289(No.2):p.179-186.